この記事でわかること
- 接着型雪庇防止ヒーターの設置手順(足場架設〜通電確認まで)
- 板金工事不要でアルミ笠木に後付けできる理由
- 電気代の目安とセンサー制御で削減できる仕組み
- 雪庇対策を放置し続けた場合の管理リスク
工事部長の村松です。札幌のビルオーナーや管理担当者の方から「笠木の雪庇が毎年できる。人が落としに行くのが怖い」という相談は、冬になると必ず届きます。放置すれば落雪事故や建物への荷重ダメージにつながり、管理責任を問われるケースもあります。今回は雪庇防止ヒーターを接着工法で設置した札幌市内3階建てビルの施工事例として、段取りから通電確認まで記録します。

雪庇防止ヒーターとは何か、どんな建物に向くか
雪庇防止ヒーターとは、ビルや集合住宅の屋上笠木に沿って電熱ケーブルを取り付け、笠木上の積雪を継続的に融かすことで雪庇の形成を抑制する設備です。
札幌では気象庁の平年値(1991〜2020年)で年間降雪量が約479cmに達し、1月だけで137cm積もる計算になります(出典)。特に風の通り道になりやすいビル屋上の笠木は、吹き溜まりが集中して雪庇が発達しやすい条件が重なりやすい場所です。
従来の対策は「人が屋上に上がって手作業で崩す」か「板金を成型して笠木ごと交換する」のどちらかでした。接着型のヒーターはその中間にある選択肢で、既存のアルミ笠木や鋼板笠木に後付けできる点が管理コストの面で評価されています。特に3階以上の高所では、人力の雪下ろし作業自体が転落リスクを伴うため、物理的に雪庇を作らせない設備投資の優先度は高いと感じています。
ご依頼の背景と現場の状況確認
今回のご依頼は、札幌市内の3階建て商業ビルを管理するオーナー様から。毎冬、屋上笠木に大きな雪庇ができており、道路に面した側への落雪が心配だというものでした。
現地を確認すると、屋上はほぼフラットな陸屋根で、外周の笠木はアルミ製。経年で表面に汚れと微細な酸化膜が乗っていましたが、変形や腐食は見られませんでした。建物の一辺に沿った笠木の全長を計測し、ヒーターの取り付け長さと電源容量の確認を行いました。
気になったのは既存の配線引き込み経路です。屋上から外壁を経由して1階の分電盤まで距離があり、PF管(プラスチック製可とう電線管)の配線ルートを板金屋・電工と事前に確認してから着工する必要がありました。段取りに時間をかけた分、工事中の手戻りはゼロで済んでいます。

雪庇防止ヒーター設置の工事の流れ
足場架設から通電確認まで、工期は約3日間。以下の手順で進めました。
3階建てビルの外周に昇降用足場を組みました。屋上作業は転落リスクが高く、資材の上げ下ろしも含め安全な足場があることが前提です。近隣への配慮として養生ネットも設置しています。
アルミ笠木の表面を溶剤(金属用クリーナー)で丁寧に拭き上げ、油分・酸化膜・ほこりを除去します。接着不良の大半は下地の汚れが原因なので、この工程を省略するわけにはいきません。清掃後、ヒーターの取り付け位置と継ぎ目の割付を現場で再確認しました。
接着力を高めるために金属用の専用プライマーをスプレーで均一に塗布します。プライマーが乾燥するまでの待ち時間が発生するため、気温と日照の条件を見ながらタイミングを判断しました。アルミは接着剤が乗りにくい素材なので、このひと手間が長期的な密着性を左右します。
粘着シート付きの電熱ケーブルを笠木の天端に沿って貼り付けていきます。継ぎ目・コーナー部分は浮きが生じやすいため、圧着しながら丁寧に進めました。貼り付け後は浮き・しわ・気泡がないか指で確認しています。
屋上から外壁を伝わせてPF管を配線し、外壁面の制御盤と1階分電盤を接続します。配線の固定ピッチと防水処理を確認しながら進めました。制御盤には降雪センサーとの連動回路も組み込んでいます。
HIOKI製の絶縁抵抗計(IR4041)を使い、配線の絶縁抵抗値を測定。基準値を満たしていることを確認してから通電テストを行いました。ヒーター全区間の発熱を触診と測定器で確認して引き渡しとしています。



接着型を選んだ理由と電気代の目安
板金工事を伴う笠木交換型のヒーターと比較したとき、接着型はコストと工期の両面で管理建物に向いている選択肢です。
接着型と板金交換型の比較
| 項目 | 接着型ヒーター(今回) | 笠木交換型ヒーター |
|---|---|---|
| 板金工事 | 不要 | 必要(成型・交換) |
| 既存笠木の活用 | できる(アルミ・鋼板対応) | 既存を撤去 |
| 工期の目安 | 約3日(足場含む) | 5日以上になることが多い |
| センサー制御 | 対応可(降雪・自己温度制御) | 対応可 |
| 向いている建物 | 既存建物・後付けリフォーム | 新築・全面改修時 |
電気代については、よく聞かれるので試算の考え方を整理しておきます。基本は「ヒーターの消費電力(kW)×稼働時間×電気単価」の掛け算です。仮に1mあたり30Wのヒーターを30m取り付けると、最大消費電力は900W=0.9kWになります。これはドライヤーを弱めにかけ続けるくらいの電力量です。
北海道の電気単価は2024年度時点で概ね1kWhあたり35円前後が目安とされています。仮につけっぱなしで1日24時間×180日(約半年)稼働させると、0.9kW×24h×180日×35円=約136,080円。ただし実際には降雪センサーが「雪が降っているとき」だけ運転させる制御をしますし、自己温度制御型のケーブルは十分温まるとパワーを自動的に落とします。当社で対応した範囲では、稼働率が4〜5割程度に抑えられるケースが多い印象です。
ただし実際の電気代は取り付け長さ・製品仕様・建物の条件で変わります。「30mで年間いくら?」という試算は現地調査後に仕様を確定してから行うのが正確です。ひとつ正直に言っておくと、このヒーターで完全に雪庇ゼロを保証できるわけではありません。極端な低温下や大量降雪が短時間に集中した場合は、ヒーターが追いつかず一時的に雪が残ることもあります。


配線工事と制御盤のポイント
ヒーター本体の貼り付けより、電工との連携が段取りの要になる工事です。
今回は屋上から外壁を縦に走るPF管の経路に既存の設備配管が集中しており、新規ルートの取り回しを事前に電工と打ち合わせて決めました。固定ピッチ・貫通部の防水処理・分電盤の空きブレーカーの確認、これが揃ってから着工しています。制御盤は降雪センサーと温度センサーの両方を組み込める仕様を選定し、将来的に他の面へ増設する場合にも対応できる容量で設置しました。
最終確認はHIOKI製の絶縁抵抗計IR4041で実施。測定値が基準を満たすことを確認してから分電盤のブレーカーを投入し、ヒーター全長の発熱と制御盤の動作を確かめて完了としました。電工が「数値がちゃんと出たら合格」と言う通り、目視だけでは見えない絶縁不良を数値で拾えるのが測定器を使う意義です。


完成後の状態と管理のポイント
施工後の笠木は、ヒーターケーブルが天端にフラットに収まり、外観上の違和感もほとんどありません。
笠木の外側から見ると、PF管と制御盤への引き込み線が整然と固定されており、雨水が管の内部に入り込まないよう端末処理を施しています。制御盤の動作モードは「自動(センサー連動)」と「手動」の切り替えが可能で、シーズン初めに自動モードに切り替えれば基本的には放置できる構成です。
管理上の注意点を一つ。シーズン前(10月頃)に制御盤のブレーカーを入れ、テスト運転で正常に発熱することを確認しておくことを勧めています。真冬に入ってから「ヒーターが動いていなかった」と気づいても、足場を組み直してからでないと点検できないケースがあるためです。年1回の動作確認を習慣にしておくと、トラブルを早期に拾えます。


よくある質問
接着型の雪庇防止ヒーターは、どんな笠木にも取り付けられますか?
アルミや鋼板など金属製の笠木であれば後付けできるケースが多いです。ただし笠木の状態(錆・変形・既存防水との干渉)によっては板金工事が必要になることもあるため、現地確認が前提になります。
雪庇防止ヒーターの電気代はどのくらいかかりますか?
ヒーターの消費電力(W/m)×取り付け長さ×稼働時間×電気単価で試算できます。降雪センサーや自己温度制御型を組み合わせると稼働時間を大幅に抑えられます。正確な金額は仕様と長さを確定後にご案内しています。
工事期間中、ビルの営業や入居者への影響はありますか?
今回のような足場を伴う工事では、足場の架設・解体時に建物周囲の一時的な立入制限が必要になります。工期は足場込みで約3日間が目安です。騒音・養生ネット設置など近隣への配慮も含めて事前に段取りをご説明します。
毎年の点検やメンテナンスは必要ですか?
シーズン前(10月頃)に制御盤のテスト運転で発熱を確認することをお勧めしています。真冬にヒーターが動いていないと気づいた場合、点検のために改めて足場が必要になるケースがあるため、年1回の動作確認が長期的なリスク回避につながります。
雪庇防止ヒーターを付けても、完全に雪庇はなくなりますか?
極端な大雪や短時間の集中降雪ではヒーターが追いつかず、一時的に雪が残ることがあります。完全にゼロを保証するものではありませんが、慢性的な雪庇の形成と人力での雪下ろし頻度は大きく減らせると感じています。

村松 拓海(有限会社北嶺建設 工事部長)
札幌市清田区を拠点に、新築・リフォーム・解体・排水管洗浄・除排雪まで現場を統括。保有資格:石綿作業主任者、建築物石綿含有建材調査者 ほか。
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