きっかけは、知り合いに教えてもらった1本の動画
先日、知り合いから「マーケティングの参考になる、いい動画があるよ」と教えてもらいました。内容は、お客様に記入していただくヒアリングシートをAI(ChatGPT)に読み込ませると、外観パース・平面図・間取り図が1枚にまとまった「新築プラン提案書」が出来上がる──というものです。
画面に映し出された提案書は、正直、驚くほど立派なものでした。これが数分でできるなら、住宅業界の仕事のやり方が変わる。そう思わせるだけのインパクトがありました。
ただ、長年図面に関わってきた身として、引っかかるところもありました。「ヒアリングシートだけで、まともな間取りが出るはずがない」。間取りは、敷地の条件や法規、構造との折り合いの中で生まれるものだからです。
そこで、自分で確かめてみることにしました。
実際に使った指示文(プロンプト)
※この検証は2026年6月時点のものです。プロンプト作成にはClaude、画像生成にはChatGPTの最新の画像生成機能「ChatGPT Images 2.0」を使っています。
まず、動画に映っていた提案書の構成(レイアウトや項目立て)と、ヒアリングシートの項目をAI(Claude)に見せて、「これと同じ形式の提案書を生成するための指示文(プロンプト)」を組み立ててもらいました。プロンプト作成はClaude、画像生成はChatGPT、という分担です。AIが何もないところから作ったわけではなく、お手本を見せて、それを再現する指示文に変換させた形です。なお、家族構成や帖数・面積などの具体的な数値は動画からは読み取れなかったため、矛盾が出ないように決めた架空の値です。
出来上がった指示文がこちら。部屋の構成、帖数、面積、コンセプト文まで細かく指定した、かなり丁寧なものです。実際に使ったものをそのまま載せます。
実際に使ったプロンプト全文(クリックで開く)
住宅会社の「新築プラン提案書」を、A4縦・1枚にまとめたプレゼン資料風の画像として作成してください。実在しそうな日本の注文住宅の提案書として、清潔感のある上品なレイアウトでお願いします。画像内の日本語テキストは、以下に指定した文言・数値のとおり、誤字なく正確に表示してください。数字は勝手に変えないでください。
■ 全体の仕様
比率:A4縦(タテ長・約1:1.41)の1枚もの
背景:オフホワイト。余白を多めにとった、整理された資料デザイン
テイスト:シンプルモダン/ミニマル。基調色はチャコールグレーとオフホワイト、アクセントにナチュラルな木目色
文字:ゴシック体、可読性重視。タイトルは大きく、各ブロックに小見出し
全体を罫線やカードで区切り、住宅メーカーの提案書らしく整然と
■ レイアウト(ブロック構成)
左上:タイトル「新築プラン提案書」+サブ見出し
右上:外観パース(大きめ・カラー)
左側中段:CONCEPT(3点)とヒアリングまとめ
中央:1F平面図(カラー・家具配置入り)と、その右に「1Fのポイント」吹き出し
その下:2F平面図(カラー・家具配置入り)と、その右に「2Fのポイント」吹き出し
右下:LDK内観イメージ(明るい写真風)
最下部:面積表と、5段階評価の「総評」アイコン
■ 外観パース(右上)
片流れ屋根、チャコールのガルバリウム鋼板と木目アクセントのツートン、シンプルモダンな2階建て。手前に車2台分のカーポート、植栽は控えめ、青空の晴天。生活感のないすっきりした外観。
■ 画像内に表示する文言(このとおり正確に)
タイトル:新築プラン提案書
サブ見出し:32〜35坪・2階建て|家事動線・回遊動線・生活感を見せない家
CONCEPT(3点・箇条書き):
・帰宅して手を洗い、そのままLDKへ。来客に生活感を見せない帰宅動線
・キッチン→洗面→ランドリーを一直線でつなぐ時短家事動線
・回遊できる水回りと、大容量のファミリー収納
ヒアリングまとめ:
・家族構成:ご夫婦+お子様2人(4人家族)
・テイスト:シンプルモダン/ツートン外観
・重視:家事動線・収納量・断熱性能
・予算:総予算 3,500万円(建物・外構含む)
■ 1F 平面図(部屋名と帖数を図に表記)
玄関 / シューズクローク / ホール / LDK 20帖 / 対面キッチン / パントリー / 和室 4.5帖 / 洗面脱衣室 / 浴室 1620 / ランドリールーム / ファミリークローク / トイレ
1Fのポイント(吹き出し3点):
・玄関→手洗い→LDKの帰宅動線
・キッチンから洗面・ランドリーへ一直線
・パントリー+ファミリークロークで収納たっぷり
■ 2F 平面図(部屋名と帖数を図に表記)
主寝室 8帖 / ウォークインクローゼット / 子供室1 6帖 / 子供室2 6帖 / 書斎 2帖 / ファミリークローゼット / ホール / トイレ / バルコニー
2Fのポイント(吹き出し2点):
・寝室はWICと直結、朝の支度がスムーズ
・子供室は将来分割を見据えた配置
■ LDK内観イメージ(右下・写真風)
明るい対面キッチンのあるLDK。木目とグレーを基調にした内装、大きな窓、シンプルなソファ。生活感を抑えた清潔な空間。
■ 面積表(このとおり正確に)
1F 床面積:54.65 ㎡
2F 床面積:53.82 ㎡
延床面積:108.47 ㎡(32.8坪)
■ 総評(5段階・星アイコンで表示)
家事動線 ★★★★★
収納量 ★★★★☆
LDKの広さ ★★★★★
採光 ★★★★☆
以上のレイアウトと文言で、住宅会社が顧客に見せる1枚の提案書として完成度高く仕上げてください。
帖数も面積も矛盾なく決め込んだ、これ以上ないくらい具体的な指示です。
出来上がったもの

出来上がったものを見て、最初は「おお」と声が出ました。タイトル、外観パース、カラーの平面図、内観イメージ、面積表、星付きの総評。レイアウトも配色も、本物の提案書と見分けがつかない仕上がりです。動画の言っていたことは本当だった──一瞬、そう思いました。
拡大して、わかったこと
ところが、じっくり見ていくと、様子が変わってきます。

まず平面図。廊下のない部屋。つながらない動線。指定したはずの配置が反映されていない箇所。図面として読もうとすると、つじつまの合わないところが次々に出てくる。
さらに見比べていくと、もっと根本的な問題に気づきました。間取り図、外観パース、内観イメージ──3つの絵が、それぞれ別の家を描いているのです。平面図の建物の形と、外観パースの建物の形が合わない。内観イメージの窓やキッチンの位置は、間取りのどこにも当てはまらない。1枚の提案書の中に、つながりのない3軒の家が同居している状態でした。
ただ、ここで決めつけるのはやめました。この食い違いは、私の指示文に「3つの絵を同じ家として描け」と書かなかったせいかもしれない。それなら、書いて確かめればいい。
検証:「同じ1軒の家として描け」と命じてみた
指示文の冒頭に、次の一節を追加しました。
【整合性の指示・最重要】
この提案書に含まれる「1F平面図」「2F平面図」「外観パース」「LDK内観イメージ」は、すべて同じ1軒の家として完全に整合させてください。
・外観パースの建物形状(輪郭・屋根の向き・窓の位置と数)は、平面図の外形・開口部と一致させること
・LDK内観イメージの窓・キッチン・ソファの位置関係は、1F平面図のLDKの配置と一致させること
・平面図の部屋同士は壁と開口で正しくつながり、廊下や入口のない部屋を作らないこと
・4つの絵がそれぞれ別の家にならないように、1つの設計として描くこと
他の文言は一切変えず、これで3回生成しました。結果です。
1回目:一見、劇的に改善した。しかし…

正直、見た瞬間は「効いた」と思いました。帖数はLDK20帖・和室4.5帖・主寝室8帖、すべて指定どおり。部屋名も完璧。前回よりずっと整って見える。
ところが、図面の読み方で見ると別の景色になります。**1階と2階の階段の位置が、建物の外形を基準に重ねるとまったく別の場所にある。この家は、2階に上がれません。**さらに1階と2階の外壁ラインが通っておらず、2階の壁が構造的な根拠なく宙に張り出している。指定したはずのパントリーは消えていました。そして外観パース──2階の平面図にはバルコニーがあるのに、外観のどの面にもバルコニーがない。
2回目:壊れる場所が変わっただけだった

2回目では、消えていたパントリーが復活しました。代わりに、**今度は1階から階段そのものが消えました。**外観のバルコニーは今回もなし。内観パースはキッチンの場所が違う。おまけに「大容量」が「大客量」と誤字になっていました。「このとおり正確に」と指定した文言でも、崩れるときは崩れます。
3回目:AIは考えるのをやめた

3回目に出てきたのは、2回目とほぼ同じ画像でした。間取りの配置も、外観の構図も、内観のアングルも。つまり再生成を重ねても「別の案を考え直す」のではなく、同じ家──同じ壊れた家──に収束していく。1階に階段がない欠陥も、バルコニーのない外観も、そのまま固定されました。
※なお、同じチャット内で再生成すると前の画像に引っ張られやすい性質があります。とはいえ実務では同じチャットで直しながら使うのが普通なので、「実際の使い方でこうなる」という検証としては意味があると考えています。
検証してわかった4つのこと
- 「同じ家として描け」と明示しても、絵同士の整合は取れない。バルコニーのない外観と、間取りと矛盾する内観は、3回とも再現した。
- 構造の論理は、毎回どこかで破綻する。1回目は階段の位置ずれ、2回目以降は階段の消失。壊れる場所が変わるだけで、壊れること自体は確実だった。
- 文字の正確さは高いが、完璧ではない。帖数・面積はほぼ毎回正しく出る一方、誤字が確率的に混ざる。
- 再生成は救済にならない。回を重ねると同じ案に収束し、欠陥ごと固定される。「何度か生成すれば当たりが出る」は成立しなかった。
いま思っていること
誤解のないように書いておくと、AIの画像生成そのものは本物です。外観パースや内観イメージの表現力、提案書としての体裁の美しさは、正直、脅威すら感じるレベルでした。「見せ方」の道具としての可能性は間違いなくあります。
そして検証を終えて、一番怖いのはここだと思いました。出来上がったものは「あと少しで完成」に見えるのです。帖数は合っている。部屋名も合っている。デザインは文句なし。だから、もう少しプロンプトを工夫すれば完全なものができそうな気がしてくる。
でも、検証が示したのは逆でした。残っている「少し」──階段が上下階でつながること、壁が通ること、外観と間取りが同じ家であること──は、絵の上手さの問題ではなく、設計の計算の問題です。画像生成AIは家の構造を計算しているわけではなく、間取りも外観も内観も、それぞれを「それっぽい絵」として描いているだけ。だから、指示文をどれだけ磨いても、この壁は越えられませんでした。簡単な9割が終わっていて、難しい1割が丸ごと残っている──それが実態だと思います。
ではAIは使えないのか、と言えばそうではなくて、使いどころを分けることだと考えています。正確さが命の間取りは、これまでどおり設計の手で。AIには、得意な「絵」と「見せ方」を任せる。その組み合わせ方を、いま模索しているところです。
なお、今回検証したのは「画像生成AIに提案書を1枚絵として描かせる」使い方です。間取り作成に特化したAIツールやCADと連携する仕組みは別系統の話なので、機会があればそちらも試してみるつもりです。
進展があれば、またこのブログで報告します。
この記事を書いた人
北嶺建設 広報担当/一級建築士 NAOE

